論壇: クリスマス・ツリー 12/5/2021
キリスト教はパレスティナから地中海世界へ広まりましたが、ヨーロッパ、とくに北欧に熱心に宣教された結果、古代ゴート族、古代ゲルマン民族の風習、土着信仰がキリスト教に影響を与えました。中欧から北欧にかけては森がかなりの面積を占めています。古代ゲルマン民族は「森の民」として樹木信仰が自然に育ちました。寒さに強い樫の木は永遠の象徴として崇拝されました。冬至の季節には「死んでいく太陽」の祭りが、また三日後には「蘇る太陽」の祭りが盛大に行われていました。
クリスマスツリーの起源については多くの説があります。紀元250年頃から西へ民族移動を始めた西ゴート族への宣教師となったウルフィラス(311頃―383頃)はローマカトリック教会から348年に正式にゴート人の司教に叙任されました。彼は聖書をゴート語に翻訳した人物として有名です。ゴート人たちは冬至の祭りに、樫の木に戦争捕虜たちを吊るしたり、戦勝祈願のため人身御供として娘を吊るしていました。この野蛮な風習を止めさせるために、ウルフィラスはキリストへの供え物として果物などを吊るして木を飾りました。これがクリスマスツリーの起源になったと言われます。
これと似たような話はたくさんあります。ある宣教師は北欧神話の冬のオーデイン祭(樫の木の周りで犠牲を捧げて乱痴気騒ぎを行う)に怒りを覚えて巨木を切り倒そうと斧の一撃を与えた。ゴート人たちが神冒涜として宣教師を殺そうとしたとき、その木に雷が落ち、巨木は倒れ、その根っこからもみの木が生えたので、ここからクリスマスツリーが始まった云々。
この宣教師の名前がウルフィラスではなくアイルランドのパトリック(390頃―490頃)、スコットランドのコロンバ(521―597)、イングランドへの宣教師カンタベリーのアウグスティヌス(545―605)となったりします。これは要するに北欧への宣教師たちは誰もが土着の信仰や樹木信仰と戦ったことを意味します。
クリスマスツリーが広がったのは1419年にドイツで聖霊救貧院にツリーを飾ったのが最初だとか、樅ノ木に最初にローソクを飾ったのはルターだったとか言われますが、それはどうでも良いトリビアです。